筆者が一番好きな作家は森博嗣先生です。
森先生の作品はミステリ作品として面白いというのは勿論、登場する数々のキャラクターが魅力的なのが特徴です。中でもいわゆる天才キャラを書かせたら森先生の右に出る者はいないでしょう。天才を生み出すことができるのは天才だけなのです。この天才キャラ達を中心とした知的でセンスのある会話や文章こそが森作品の醍醐味であるといえます。
そんな森作品には、心に残る名言が幾つも存在しています。天才は良いことを言うのです。そこで、森先生の小説の中から個人的に好きな名言、というよりはお気に入りの一文を下記にまとめてみました。全てのシリーズを対象とすると膨大な数になってしまう為、今回は数あるシリーズの中の1つ、Vシリーズと呼ばれる10作品の中から選んでおります。
1作品から3つ程度選んでおりますが、それぞれの作品のリンク先には筆者の好きな文章を「お気に入りの一文」としていくつも載せてありますので、気になった方はそちらも合わせてチェックして頂ければと思います。
黒猫の三角
つまらない冗談だったし、しかも間違っている。癖になるから、笑ってはいけない。
何事も一回ではもの足りない。二回目以降があって初めて一回目の重要さに気づく。
「固定概念で鈍化し麻痺すること、それが僕の唯一恐れる対象です」
人形式モナリザ
正当な理解は、正当な理解力を尽くさなければ、得られない。
月は幽咽のデバイス
もちろん、紅子も厭味とは思わなかった。こういった会話の内容が厭味に聞こえるとしたら、それは心が貧しい証拠だろう。
大人になるとね、都合の悪いことはどんどん忘れてしまうのよ。今は信じられないかもしれないけれど、そうね、十六歳くらいから、そういうふうになるの。揮発性っていうんだけれど、もともとそういうふうに人間はできているの。
自分が不幸だとは思わない。自分は常に最善の道を選択したのだから、今よりも幸せにはなれなかったはず。過去のどこを探しても、間違いはなかった。どこへ戻っても、きっと同じ道を選ぶだろう。
夢・出逢い・魔性
自分に都合の良い目標を近場で見つけて、それに集中して、それに逃避して、それが夢なんだって、思い込もうとするんです。人間ってそういう生き方しかできないんですよね。
魔剣天翔
一般的な傾向として、著名人はというのは、時間に遅れてくるものだ。そうすることで自分の立場をアピールする姑息な人間も多い。待つよりは待たせる方が偉いという錯覚が、どういうわけか根強いからである。
恋恋蓮歩の演習
あなたが急いでも、あなたの人生は短くならない。
彼の胸にもたれかかり、もうお互いに、それぞれの存在を含む形でしか自分の将来を見ていないことを確認し合った。
ことの真実を知らない人たちが噂話をするのは、その人の品性が下劣であることをさらけ出す行為なんだわ。
六人の超音波科学者
苺は大きくなるほど甘さが薄くなる、という法則を彼は体験的に学んでいたが、それでもついつい粒の大きいものを手に取ってしまう。習性は、理屈だけではなかなか変革できないものだ。
捩れ屋敷の利鈍
ただし、どうして彼女が怒っていたのかは思い出せない。都合の悪いことは記憶しないのが、人間の頭脳の仕組み、自己防衛を目的としたごく普通の機能らしい。
良い思い出は、できるだけ早く、新鮮なうちに素早くフリーズしておくにかぎる。きっと、いつか落ち込んだときに、とても辛いときに、そして死ぬ直前にでも、それが役に立つだろう。
良い道具には、それが道具であることを忘れさせてくれる機能がある。まるで魔法のように、それを使う人間の腕が上がったように錯覚させてくれる。
朽ちる散る落ちる
「運命」とは、過去の体験の全体概念であるが、その名の標識を、自分の将来の道筋にも立てようとする。どこへ向かっているのかわからない道も、「運命」行きだと決めつけるだけで、多少は安心できるからだ。
いつしか、遊園地は、他の誰かと一緒に来る場所になり、その誰かを見つめることが主になった。歳を重ねるほど、人の視野は狭くなるという一例である。
「〜正しい形も、斜めから見られれば歪んだ形になります。放っておけば、人はいくらでも捩曲げる。基本的に人間って残酷なんです」
赤緑黒白
「〜その邪魔ものが科学的な謎であれば、解決した者は科学者として成功し、その邪魔ものが技術的困難であれば、解決した者は一流のエンジニアになる。その邪魔ものが、たまたま生きた人間だったときには、解決に成功した者が、殺人者と呼ばれるのです」
いかがだったでしょうか。
まとめてみると、改めて森先生の凄さを実感しました。
こんなにもコンスタントに名言と呼べるような文章を生み出すことができる小説家はなかなかいないのではないでしょうか。
他のシリーズについても近い内にまとめていこうと思っています。